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2/24 移動

「当機は間もなく着陸態勢に入ります」

 

アナウンスに目を覚まし二重になった窓の外に目をやる。

窓の外は暗く自分の服が反射して見にくいが目を凝らす。

道路は血管だ。光の密度は人の生活の濃さ。光の無いところは森か海か川か、ブラックホールのように静かに浮かんでいる。光と影で陸の形が分かる。真っ暗な中に丸い光の島が見える。あれはなんという島だったか、学生時代になんととなく見た天気予報の地図を思い出してみる。島の名前は思い出せないが、神社だけがある小さい島だったような気がする。

光の密度が濃くなっていく。血管の周りにうっすらとしていた光が少しづつ濃くなっていく。血管は四方八方へその脈を伸ばし別の血管へ繋がっていく。少しづつ少しづつ光が近づいてくる。微細な点たった光のひとつひとつの形が見えてくる。動いているのは自動車。丸い街灯。ぼんやりと照らされる駐車場。長方形に切り取られたものはサッカーコート。高いあの建物は何のビルだったか。この辺りは昔来たことあったような気がする。

過去のこの街での生活を思い出しているとまた光は近づいてくる。今までただ真っ暗だった闇が光を反射している川の水面だったことが分かる。マンションの部屋には不規則に明かりがついている。ファミレスに車は疎らだ。街頭ビジョンにはご当地のCMが流れている。機体の揺れが大きくなる。気づけば走る車は驚くほど近い。空港の区画を区切る柵を越える。真っ暗な中に青い光。ひとつふたつと視界を流れていく。

 

着地の衝撃があり慣性力に体が座席に押し付けられる。体に力を入れて少し前屈みになる。流れる青い光の速度が遅くなる。青だけでなく赤や黄色の光も見えてくる。たくさんの光が浮かんでいる。その中を今はもうゆっくりとした速度でプロペラ機が進む。機内アナウンスが出発地よりも高い気温を告げている。

サインが消えたのを確認しスマホ機内モードを解除する。中腰で立ち上がる。隣の乗客が通路へ出たタイミングで頭上の荷物を取り出し電子書籍リーダーをしまい込み背負う。人の流れに合流し前へと進む。普段の半分くらいの歩幅でゆっくりとゆっくりと。添乗員に挨拶をし左へと折れる。タラップを降りなると体を外気が包んだ。

腕時計を確認し駅までの移動時間と乗り換えを組み立てる。目的地まではまだあと少しかかりそうである。